2020年6月に公布された改正道路交通法により「妨害運転罪」が創設されたことで、煽り運転に関する項目が講習の中にも追加されていましたが、煽り運転を含めた事故の事例報告や、人の交通心理に基づく要因分析は、私たちの仕事や経営にも大いに関係してくる問題だなあと感じながら聞いていました。
さて、自動車免許をお持ちの方にとってみれば今更かも知れませんが、交通事故の要因には「直接要因」と「背後要因」があると言われています。
交通事故の多くは、スピードの出し過ぎや急ハンドルといった、運転者の運転操作ミスなどの人的要因(過失)によるとされており、これらは「直接要因」と言われます。
しかし実際には、直接要因となった過失の背後に、認知・判断・操作といった運転動作のいずれかの段階において、運転者がミスを犯すに至った要因があるわけで、これを「背後要因」と言います。
車両構造や走行環境といった環境による場合もありますが、「急いでいた」「イライラしていた」という運転者の心理から生じるものもあり、さらに深堀りすれば「約束に遅れそうだった」「前の車がノロノロしていた」といったものから、さらにさらに掘れば「慢性的に過度なストレスがかかる職場環境にいる」とか「仕事が忙しくて常に寝不足状態である」といった原因があるかも知れません。
心理的ストレスから危険運転が発生しているのであれば、そのストレスを解消させることが必要になるわけです。
さらに言えば、先に挙げた煽り運転についても、「急な割り込みをされた」とか「前の車がノロノロ走っている」といった理由から発生する事が多いようですが、この「前の車」にも、割り込みやノロノロ運転の背後には「道に迷っていた」とか「初めて来る地域で慎重に運転していた」といった理由があるはずです。
他人の行動にも何かしらの背後要因があることを理解、想像できれば、煽り運転も発生しないはずです(言うは易く行うは難し、ですが…)。
自動車の運転だけでなく、私たちの仕事や経営においても同じことが言えますが、事故やミスの要因分析において、前提となる直接要因の認定が確実に行われることはもちろんですが、根本的な事故の要因となる背後要因を理解することが大切で、次のミスを防ぐことに繋がります。また、誰しもが多くの背後要因を受けて行動していることを想像し、相互理解しながら働くことで、組織の心理的安全性が高まり、ミスの少ない、質の高い仕事に繋がるのだと思います。
「1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故と300件の怪我に至らない事故がある」と言われます(ハインリッヒの法則)。みなさんの会社や組織でも、重大事故が起こる前に、怪我に至らない事故(ヒヤリ・ハット)を共有し、その背後要因をよく話し合ってみると、経営課題解決のヒントが見つかるかも知れませんし、みなさんが安心して働ける職場環境の構築に繋がるかも知れません。
今回もお読みいただきありがとうございました。
(柴沼)