先日、埼玉中小企業家同友会の例会で「コロナ後に中小企業は潰れていいのか?」と題した京都大学名誉教授の岡田知宏氏の講演を聞く機会がありました。政府のブレーンであるアトキンソン氏の「生産性の悪い中小企業は市場から退場させるべき」という主張とは裏腹に、中小企業が地域で果たしている役割、特にニュースでよく目にする災害時に重機を持った建設業者の奮闘など、最近の事例を紹介しながら話を始められました。

岡田先生は、グローバリズムの時代にあっても、中小企業が地域経済を支えていることの自覚、地域からモノを見ることの大切さを強調されます。そして行政も地域の中小企業とのコラボレーションに注目し「中小企業基本条例」を制定するところが増えて来ているということで、中小企業を主役に、地域の実情にあった独自の産業政策を自治体が持つ時代に入っていると言われます。

地域を豊かにするとはどういうことか・・・高度経済成長期以来、「大型公共事業+企業誘致政策で地域活性化」論が常識化して来ましたが、長い目で見ると結局うまくいっていません。大型公共事業は、地域経済への波及効果が少ないうえ地方財政を悪化させる要因になっています。また企業誘致に成功しても、利益は東京の本社に移転し地域内では循環しない、しかも今回のような環境変化があれば誘致した企業が簡単に撤退・縮小する危険が伴います。

結局「地域が豊かになる」とは、住民一人ひとりの生活が維持され向上することであり、そのためには地域内にある経済主体(企業・商店・農家・協同組合・NPO・そして自治体)が毎年、地域に再投資を繰り返すことが必須ということです。それぞれの地域、そこに仕事と所得が生まれ、生活が維持、拡大される、その地域内経済循環の網を太くすることがとても大切だと話されます。

言われてみると最近のキーワードで目にする、人々の生活に欠かせない仕事という「エッセンシャルワーク」など、地域経済の持続的発展のカギを握るのは実は中小企業であり、特に小規模ほど地域とのつながりが強くて、地域社会の担い手になっていることに気がつきます。そして自治体との関係では、地域内経済循環の視点とともに、特に防災を意識した「振興条例」が益々必要になっているということも、狭い地域に甚大な被害をもたらす自然災害が頻発する中では「なるほど」という感じです。

岡田先生は最後に「人のつながりは生きる力。物理的な距離は離れていても、社会的な距離はより密にしなければならない」(室崎益輝神戸大学名誉教授『神戸新聞』2020/5/21付)という言葉を紹介されました。コロナ禍にあって絶対に生き残る、したたかに生き残るためのキーワードが「つながる」ということなんだと思いました。

私たち中小企業には、コロナ後を見据えて、足元から「人間性」を回復する地域づくりが期待されているのだろうと思います。オンラインは便利だけれど、やっぱりリアルに会って会議をしたり、お酒を酌み交わしながら会話をする楽しさとは比べることが出来ません。リアルな旅行やお祭り、イベントを楽しみにしながら、そのためにも私たちは、意地でも今を乗り切り、コロナ後を見据えた準備をしておかなければなりません。

今回もお読みいただき、ありがとうございました。


【吉村】