今の時代、人々の消費における価値観は実に多様化しています。世の中のグローバル化や技術革新とも相まって、誰でも衣食住の購入や遊びなど、それぞれ何かをしようとすれば膨大な選択肢があり、時々の趣味嗜好に応じて、また利害を共にする人と相談しながら選択しています。また一度選択したものが、今後ずっと継続されるとも限らない時代です。
例えば野球やサッカーなどスポーツにしても、とにかく強くなるためにコーチによるスパルタでチーム作りをすることに順応する人がいる一方で、耐え切れずに辞めていく人もいます。逆に楽しいからやった方が良いとばかりに無理やり仲間に入れてもらうのも「ありがた迷惑」という場合もあり、それが重なると逆に嫌われてしまうことにもなりかねません。
師弟関係や男女の性差に関する考え方、環境への配慮のレベル、更には家族関係など、従来の「〇〇とはこういうものだ」という価値観を抜け出せないままでいると、少なくともビジネスの世界においては取り残されてしまうことに成りかねません。
更に言えば、いち早くそうした変化をつかみ、従来はあたり前と思われている価値観とちがうところ、あたり前への「アンチ」やあたり前が「嫌いな人々」、あたり前に「無関係な人々」と思っていた存在を認識すると、そこに独自のニーズを見て、新たな市場として進出していくことも可能になります。
コロナ禍が治まってくると徐々にあちこちで飲み会の話が出てきます。従来はお酒の飲めない人はお茶やコーラなどソフトドリンクのみでした。でも車で行くのでお酒が飲めない、お酒に強くないけど、一緒に飲む雰囲気が好き、同席しないといけない、といったニーズに応えるノンアル市場や微アル市場はこれからも益々広がっていくものと思われます。まさに「〇〇とはこういうもの」という既成の枠を超えた発想です。
雑貨や衣料が「ダサい」より個性的で「おしゃれ」であることが良いという価値観は普通にあるもので、ある意味それは普遍的とも言えるのではないかと思います。ただその「アンチ」として登場した無印良品やユニクロなどシンプルで大量生産される商品が、それぞれ安価な「人気ブランド」として新たな価値を創造し、同じものが爆発的に売れる時代でもあるということです。
キューピーがマヨネーズの高カロリーを嫌う消費者に対し、カロリーハーフタイプを開発した際は、そもそもマヨネーズという当たり前の商品を否定することにならないかと危惧する意見もあったそうです。でも今ではカロリーカットのマヨネーズが、これまでマヨネーズを敬遠していた多くの消費者をも取り込んでいます。
今の時代、人々の価値観は多様化しています。これまで「〇〇とはこういうもの」という「当たり前」で流していた「決まりごと」を、今一度見返してみてはいかがでしょう。あたり前から外れてみる、一旦は自己否定につながるかも知れない発想をしてみる・・・もしかしたら業界の当たり前の周りに、ちょっとした面白い市場が見えて来るかも知れません。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
(吉村)
2022年06月
「ヒューマンエラーの罠」
・是正処置報告書に散見される「原因はヒューマンエラー」
・ヒューマンエラーは原因ではなく結果
・ヒューマンエラーの類型
・ヒューマンエラーを発生させない仕組みの構築を
・中小企業の強み
本日もお邪魔いたします。
もうかれこれ10年以上になりますが、私は会社で内部マネジメントシステム監査部の仕事をさせていただいています。
・是正処置報告書に散見される「原因はヒューマンエラー」
このマネジメントシステムの元となる規格文書はISO9001です。
このISO9001の2015年版において、「8.5.1.製造及びサービス提供の管理」という項番に「ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する」というものが加えられました。
すでにこの規格文書を元とした当社マネジメントシステムでの運用は5年以上となります。
そこで、あらためてヒューマンエラーについて調べてみました。
いろいろと情報を集めていると「ヒューマンエラーは、品質事故、安全事故、不祥事などにおける原因ではない、結果である」という文言がありました。
・ヒューマンエラーは原因ではなく結果
2005年に発生したJR西日本における福知山線脱線事故という痛ましい事故では、当初、「事故の原因の主因は運転士個人にあると考える」(ヒューマンエラー)としていたものが遺族や多くの人々の努力により、
JR西日本自身が、
1.安全方針を具体化させる風土作りに至らなかったこと
2.運営体力の脆弱さが安全対策のレベルを停滞させたこと
3.社員管理(一部の運転士にとってペナルティと受け止められ、このことは最悪の場合、ミスを起こした運転士がさらにミスの連鎖を惹き起こす可能性も示唆するものと考える。)
4.上意下達の風土
といったことが原因であったと総括しています。
要約すると、
収益を高めるために、ダイヤ改正で速度アップと高密度ダイヤを決定し、経営層と技術陣や現場がバラバラに対策をとり、その結果、経営トップは現場や安全技術を軽視して、利益増を狙った施策に邁進する。過酷な日勤教育が処罰的に課されることを恐れて、現場は小さなミスを上司に報告せず隠しておいて何とか現場対応で凌ぐことを繰り返す、その結果がスピードを落とさずにカーブに突入することにつながった。
これがヒューマンエラーを呼び寄せたということです。
・ヒューマンエラーの類型
例えば、ヒューマンエラーは人間の行動特性を原因として起きると言われています。
その行動特性は3つ、「認知」「判断」「行動」です。
「認知」においては、その作業者の「知識、経験、理解が不足」していることによる結果としてエラーが発生します。
「判断」においては、その作業者の「思い込み」による結果としてエラーが発生します。
「行動」においては、作業の「複雑さ」、「難しさ」、「疲労」、「加齢」、「手抜き」などの結果としてエラーが発生します。
ISO9001の内部監査員研修などの講師の仕事をしていると、その組織において何らかのインシデントが発生した場合の是正処置報告書を拝見する機会があります。
その報告書の原因欄には、「報連相がされていない・不注意・ルール無視・多忙・知識不足・失念・コミュニケーション不足・環境・協力業者・過剰・不足・不良・破損」などの「原因の種別」があり、これらの選択肢から選ぶようになっていたりします。
その中の、「報連相がされていない・不注意・ルール無視・多忙・失念・コミュニケーション不足・環境・過剰・不足・不良・破損」はそのインシデントの原因と言えるのかな?と思える場合があります。
先の3つの行動特性における「認知」を例に対策としてよく言われていることとして、
・知識や経験が不足して認識を誤る⇒原因:知識が不足している。経験が不足している。⇒知識や経験を得られるシクミが作られていない(これが真の原因)。
・そもそも知らない⇒原因:無知⇒知る機会(シクミ)が作られていない(これが真の原因)。
・マニュアルが複雑すぎる⇒原因:複雑⇒マニュアルの見直しがシクミ化されていない(これが真の原因)。
・違いが小さすぎる⇒原因:判別できない⇒作業者が違いを認知できるほど違いを大きく出来ていない(これが真の原因)。
・ヒューマンエラーを発生させない仕組みの構築を
要は、そのインシデントが発生する原因を作業者個人の特性としてとらえるのではなく、シクミに不良があり、その結果としてヒューマンエラーが発生したと考えることが要求されていると言えそうです。
例えば、お客様に何らかのサービス(商品)を提供するといった仕事の場合、お客様から見れば、そのサービス提供を行う者がどんな特性を持っているかはわかりません。
スターバックスでコーヒーを煎れてくれている人がアルバイトなのか、正社員なのか、10年選手なのか、半月前に入社したスタッフなのかお客様の側からはわかりません。
(先日配信させていただいた「仕事ができるようになることそのものに感動を」2022年5月18日号で、若葉マークを名札の横に貼った居酒屋スタッフさんのことを書きましたが、見える化でシクミ化している例もあります)
しかし、お客様の期待を満たしたサービスの提供が行われることを前提として、組織は対価を頂いているわけですから、当然に「半月前入社だから、コーヒーに味が無くてもいいや」とならないのと同様に、「だれがやってもお客様の期待を満足させられるサービスがリリースされる」シクミが要求されます。
そう考えると、インシデントの原因を「ヒューマンエラー(の種別)」とするのではなく、
1.なぜ、そのエラーが発生したのか。
2.なぜ、事前にそのエラーを見つけられなかったのか。
の2点で書くと、ヒューマンエラーを原因とせずに、結果として捉え原因をシクミの問題として特定しやすいと考えられます。
そうした場合の先の1.及び2.における原因は、
1.知識不足を補えていなかったから。
2.不足している知識を検証するシクミがなかったから
となるかと思います。
人件費をコストとして捉え、最大の効果(費用対効果)を得ることは必要なことです。
しかし、ヒトを単にコストとしてとらえて、国ぐるみでワーキングプア(年収200万円未満)を約1200万人も生み出す社会では、消費は喚起されず、GDPの回復など夢のまた夢でしょう。
・中小企業の強み
中小企業は国内企業数の99%を占め、雇用の7割を生み出しています。
その中小企業は、大企業による収奪のため、本来生み出している価値に比して大幅に少ない収益しかあげられていません。
それは、資本金10億円以上の大企業(金融業・保険業を含む)の内部留保が2020年度に466.8兆円となり、前年度から7.1兆円増額し、過去最高額を更新したことをみても明らかです。
中小企業はその結果、本来の費用対効果以上の「効果」を強制されます。
さらに、消費税というシクミによって、法律をつかった収奪も発生します。
大企業は外注として中小企業を利用することで、国内においては税額控除を行い、輸出による「ゼロ税率」というシクミで莫大な還付金を得ています。
これをアメリカなどは「見えない補助金」として競争をゆがめるものと言っています。
(結果、その他の理由*もありますがアメリカは合衆国として消費税の導入はしていませんし、戦後ヨーロッパで消費税の導入が進んだのは、見えない補助金として国が内国法人に還付することによって大企業を育成してきたという歴史があります。詳しくは「アメリカは日本の消費税をゆるさない」岩本沙弓著に詳しいです)
*その他の理由=法人税は所得の金額による計算をしますから、赤字だと会社のキャッシュフローに大きな影響を与える税額は発生しません。しかし消費税は(日本の場合)赤字であったとしても、基準期間の課税売上金額が1千万円を超えると消費税の課税事業者になり、納税義務が発生します。納税義務が発生すると大方の事業者は消費税の納税を赤字であったとしてもしなければなりません。これがスタートアップ企業にとっては非常に大きな負担となることなどもアメリカが消費税を導入しない理由です(但し、州によっては消費税があるところもあります。結果州境で商品の価格がほんの数十メートルで変わることがあるそうです)。
話が大幅に脱線してしまいました。
中小企業が本来の費用対効果を大企業からの収奪があっても発揮できる可能性が残されているのは、中小企業が強みとしているフットワークと思われます。
例えば、何らかのインシデントが発生した時、その原因を「ヒト」に求めてしまうと、そのヒトを除外することで是正しようとします。
しかし、その「ヒト」を活かせるシクミを構築できればどうでしょうか。
大企業は、一定の管理部門が新たなシクミを構築してもその図体の大きさから末端までマネジメントされることに時間がかかります。
一方、ファミリービジネスと呼ばれる同族企業であればトップから末端まで情報が到達するのはあっという間、掛け声ひとつで伝わります。
問題は、それが「できるかどうか」です。
大企業は多くのヒトという資源を少数で雇用していますので、「替え」が効きます。
しかし、中小企業の場合、そう簡単に替えはいません。
「替え」が効かない状況でインシデントの原因をヒューマンエラーで片づけてしまい、そのスタッフが退職してしまったら、それこそそれまでの投資効果はゼロになってしまいます。
ヒューマンエラー(ヒトによるミス)に原因を求めず、ヒューマンエラーを結果として捉え、その結果がどのような組織のシクミの不具合によってミスを誘発してしまったのかを考えるきっかけは、中小企業こそその強みを発揮しやすいことと思われます。
中小企業の人材不足から見えてきた問題
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